昭和50(1975)年代後半になると、平均寿命が伸びてきたことにより、一定の期間で保障が切れる「定期付養老保険」ではなく、一生涯保障が継続する「終身保険」への関心が除々に高まってきました。
このページでは、昭和50年代から平成のバブル崩壊までの保険会社の変遷について、解説していきます。
カタカナ生保は高額な「終身保険」が主流
昭和54(1979)年、コンサルティング営業を中心とした「ソニー・プルデンシャル生命」(後、昭和62(1987)年に合併契約を解消し、ソニー生命とプルデンシャル生命に分割して改称)が設立されました。
生保レディの成績は、今も昔も保険料ではなく、保険金額の大きさによって評価されるため、「定期付養老保険」の高倍率化がいきつくところまでいきましたが、コンサルティング営業の成績は、保険料の大きさで評価されるため、高額な「終身保険」に特化していきました。
また、高齢化社会による公的年金制度の財政悪化の影響もあり、老後生活資金準備へのニーズが増大して、生きるための保障として医療保障だけでなく、老後保障が不可欠になってきました。そのため、昭和54(1979)年以降、各社から相次いで「個人年金保険」を発売しました。
漢字生保は「定期付終身保険」が主力商品
昭和59年、個人年金保険料控除制度の創設により、税制面での優遇措置もあって販売実績は順調に推移していきました。
「終身保険」では、どうしても保険料が割高になるため、昭和60(1985)年以降、「定期付養老保険」から「定期付終身保険」へのシフトが急速に起こり、多くの会社で「定期付終身保険」が主力商品になりました。
定期特約の部分は、「全期型」となっています。 バブル期直前の昭和60(1985)年から、圧倒的な販売力を誇った郵便局の簡保生命に対抗して、民間の生命保険会社は予定利率を引き上げ、5~6%にも達しました。
また、市場金利の上昇につれて、昭和61(1986)年10月に「変額保険」というハイリスク・ハイリターンの商品も発売。株価の順調な上昇などによる高水準の運用実績を受けて、好調な販売実績となりました。
この頃、「定期付終身保険」を解約して「変額保険」に加入する方が続出していましたが、今振り返ると予定利率が高い時代であったために、解約するのはもったいなかったと後悔する方も少なくありません。
バブル崩壊後に開発された保険料負担軽減の4つの制度
そして、平成3(1991)年のバブル崩壊を機に、主力商品が変化していきました。
まずは、平成2(1990)年、漢字生保の「変額保険」の販売停止です。銀行が土地担保に高額融資をし、そのお金で「一時払変額終身保険」に加入した人が、バブル破綻で返済が不可となり、自殺したり、破産したりしたため、というのがトラブルが多発したためです。 高齢化を背景に、平成4(1992)年から「生前給付型」の特定疾病保障保険(特約)、リビングニーズ特約、通院特約や介護特約などの第三分野の開発が進みました。
また、死亡保障市場の拡大が鈍化するとともに、バブル崩壊後の平成5(1993)年からの予定利率を引き下げにより、それまで積極的に販売していた「養老保険」「終身保険」「個人年金保険」といった貯蓄性商品の魅力が低下しました。 生命保険業界は厳しい時代に突入することになりました。
そこで、保険料負担を軽減するため、以下の4つの制度が開発されました。
特約更新制度
「定期付終身保険」などにおいて、従来からの定期保険特約の保険期間を主契約の保険料払込期間と同一したものに加え、当初の定期保険特約の保険期間を10年・15年などの短期に設定(更新型)への販売の中心をシフトされました。
- 短期に設定した定期保険特約により加入当初の保険料支払いを 安くすることが可。
- 定期保険特約の保険期間満了時には、自動更新制度により健康状態に かかわらず保障を継続可。
- 入院保障特約などの疾病関係特約についても、更新型を取り扱うことにより、さらに保険料を割安にすることが可に。
頭金制度
頭金制度は、契約時に余裕資金などを一時払保険料として契約の一部に充当し、平準払部分の保険料負担を小さくする制度。
終身保険などの主契約に充当する方法に加え、定期保険特約部分に充当する方法も開発されました。 更新型の定期保険特約の保険料を充当した場合の保険料軽減効果は大です。主契約と定期保険特約の両方に充当することも可能です。
ボーナス払併用制度
給与所得者を中心に、住宅・自動車の購入などで、ボーナス時の支払を多くし、月々の支払負担を軽減する制度が普及してますが、生命保険においても、ボーナス払併用制度が普及しました。
職域での販売を中心に活用され、6ヶ月ごとに保険料を一括払していくボーナス払契約と月払契約の組み合わせを1つの契約とする方式がありました。
修正保険料方式(ステップ払込方式)
収入は年齢とともに上昇することに着目し、期間の経過すなわち収入の増加にあわせて支払保険料が増加する形としたのが修正保険料方式(ステップ払込方式)です。
保険金額を確保しつつ、一定期間(ステップ期間)経過後、あるいは一定期間経過ごとに一定割合で保険料が上がる仕組みで、これにより契約当初の保険料を安くすることが可能になりました。
保障内容を変更するための4つの制度
契約している生命保険の保障内容を変更するために、以下の4つの制度が開発されました。
転換制度(コンバージョン)
既契約の責任準備金や積立配当金などを新たな契約の責任準備金に充当することにより、少ない保険料負担で最新の保険に加入できるようにしました。
昭和63(1988)年に転換価格を転換後契約の主契約部分のみでなく、主契約部分と定期保険特約部分の両方に、転換以外の部分と同じ比率で充当する比例転換方式が「定期付終身保険」について実施されました。
更新タイプの定期保険特約とあわせて活用することにより、大きな保険料低減効果を発揮することとなりました。
このため、比例転換方式は、たちまち多くの会社に普及し、さらに転換価格を全て定期保険特約へ充当する方式を導入した会社もあります。
このような制度を利用して、バブル期に最盛期を迎えた「全期型」の「定期付終身保険」は、「更新型」の「定期付終身保険」にシフトしていったのです。
「更新型」の「定期付終身保険」は、「全期型」の「定期付終身保険」に比べて、加入時においては割安に大きな保障を得ることができますが、10年経ったときの保険料は、1.5倍~2倍の金額となります。
「更新型」が発売された当初は、見積書に将来の予定保険料が完全に記載されていなかったため、10年後になって転換しなければよかったと後悔する契約者が後を絶ちませんでした。
中途増額制度、特約中途付加制度
すでに加入している契約の保険期間中に保険金額を増額する制度であり、増額部分の保険金に対応して、保険料も増額されます。
定期保険特約更新時の内容変更制度
「定期付終身保険」において、更新型の定期保険特約の取扱が一般的になってきたことに合わせて、更新時に保険金の増額・減額を取り扱ったり、定期保険特約から他の保険種類に無選択で変更できるという制度も実施されました。
移行制度
「終身保険」の保険料払込期間満了後あるいは「個人年金保険」の年金開始時に、責任準備金や積立配当金などを活用して、死亡保障から年金受け取りへ、終身年金から確定年金へなど、異なった保障内容に変更できる制度として開発されました。
保障内容変更制度ともいい、契約自体はあくまでも当初の契約が継続する点と、変更は保険料払込期間満了後以降に限られる点が、転換制度とは異なる点です。
生命保険は長期に渡る契約なので、加入後もライフステージに応じて変更ができるよう、加入後の自在性の向上に努めました。しかし、変更=契約者にとって有利になるとは限りませんので、十分な注意が必要です。
これまで説明した内容を年表にまとめると、以下のようになります。
このように、バブル崩壊など、日本経済の状況に応じて、主力商品が変化したり、新しい制度が開発されました。