生命保険の税法上の特典の一つとして、保険料を支払ったときの「生命保険料控除」があります。
生命保険の契約をすると、契約者は生命保険料を保険会社に払い込むことになります。
保険料の支払い方法には、月払い、半年払い、年払い、ボーナス払い、一時払い、前納、などがありますが、どのような支払い方法をとっていても、支払う保険料に対して税金は一切かかりません。
もちろん、消費税もかかりません。
税金がかかるのではなく、税金が戻ってくる制度が生命保険料控除です。
その支払保険料に応じて、一定の額がその年の契約者の所得から控除されます。
その分だけ課税対象額が少なくなり、所得税と住民税が軽減されます。
生命保険料控除には、一般の生命保険料控除と個人年金保険料にかかる控除の2種類があります。なお、2012年の新規契約分からは「介護医療保険料控除」が新設され、3種類になる予定です。
生命保険料控除は、民間の生命保険契約のほか、かんぽ生命(旧:日本郵政公社)の生命保険・年金保険や農協(JA)の生命共済・年金共済などの保険料や掛金にも適用されます。
実際に生命保険料控除の対象となる契約はどんな条件でしょうか?
一般の生命保険料控除が受けられる保険の範囲
対象となるのは、保険金受取人が、本人もしくは配偶者、またはその他の親族(6親等以内の血族と3親等以内の姻族)である生命保険の保険料です。
親族であれば生計を一にしていなくても、生命保険料控除を受けられます。
「財形保険」および保険期間が5年未満の「貯蓄保険」は、控除の対象から除かれます。
個人年金保険料控除が受けられる保険の範囲
対象となるのは、「個人年金保険料税制適格特約」を付加した個人年金保険の保険料です。
この特約を付加するためには、
- 年金受取人が契約者または配偶者のいずれかであること。
- 年金受取人は被保険者と同一人であること。
- 保険料払込期間が10年以上の契約形態であること(一時払いは不可)
- 年金の種類が確定年金・有期年金であるときは、年金開始日における
被保険者の年齢が60歳以上で、かつ年金受取期間が10年以上であること。
などの条件をすべて満たす必要があります。
個人年金保険で、「個人年金保険料税制適格特約」を付加していない場合や、変額個人年金保険は、一般の生命保険料控除の対象となります。
また、疾病入院特約などを付加している場合、特約部分の保険料については、個人年金保険料控除の対象とはならず、一般の生命保険料控除の対象となります。
生命保険料控除が認められる保険料
その年の1月1日から12月31日までに払い込んだ保険料です。
なお、実際に生命保険料控除が認められる年間払込保険料額は、配当金などとの関係に応じて以下のようになります。
■配当金、保険料の払い込み方法と、年間払込保険料額の関係
|
保険料控除の対象となる
年間払込保険料額 |
配当金が支払われる場合
(積立配当金、保険料と相殺する方法) |
その年中に払い込んだ保険料合計額から配当金を差し引いた金額。 |
配当金が支払われる場合
(上記以外) |
配当金で保険金を買い増しする場合や、配当金の支払方法が積立(据置)で途中引出しができない「個人年金保険料税制適格特約」を付加した個人年金保険の場合は、払い込んだ保険料額そのもの。 |
保険料を前納・一括払した場合 |
次の算式により計算した金額。
「前納・一括払保険料×その年中に払込期日の到来する回数÷前納・一括払保険料に係る払込期日の総回数」 |
保険料を一時払で払い込んで
契約を申し込んだ場合 |
その金額(払い込んだ年に限り控除の対象)。 |
自動振替貸付を利用した場合 |
この貸付を利用して払い込んだ保険料も控除の対象となる。 |
※前納とは半年払・年払保険料を、一括払とは月払保険料を数回分まとめて払い込むことです。(月払の場合も前納と呼ぶ生命保険会社があります)。前納・一括払とも、まとめて払い込まれた金額から払込期日が到来するつど保険料に充てられます。
※一時払とは、保険期間全体に対応する保険料を契約時に1回で払い込むことです。
控除される金額の算出方法を確認していきましょう。
所得税と住民税では控除の額が異なりますが、次のそれぞれの表によって計算された額がその年の所得から控除されます。
年間払込保険料と控除される額
■所得税の生命保険料控除額(所得税法第76条)
区分 |
年間払込保険料 |
控除される額 |
一般の生命保険料の場合
(個人年金保険の場合も同じ) |
25,000円以下の場合 |
払込保険料全額 |
25,000円を超え
50,000円以下の場合 |
(年間払込保険料×1/2)
+12,500円 |
50,000円を超え
100,000円以下の場合 |
(年間払込保険料×1/4)
+25,000円 |
100,000円 を超える場合 |
一律50,000円 |
■住民税の生命保険料控除(地方税法第34条)
区分 |
年間払込保険料 |
控除される額 |
一般の生命保険料の場合
(個人年金保険の場合も同じ) |
15,000円以下の場合 |
払込保険料全額 |
15,000円を超え
40,000円以下の場合 |
(年間払込保険料×1/2)
+7,500円 |
40,000円を超え
70,000円以下の場合 |
(年間払込保険料×1/4)
+17,500円 |
70,000円 を超える場合 |
一律35,000円 |
※所得税で所定の手続きをしていれば、住民税の手続きを特に行う必要はありません。
実際、生命保険や個人年金への加入による節税額はいくらぐらいになるでしょうか?
生命保険・個人年金ともに加入、 生命保険料10万円と、個人年金保険(税制適格型)保険料10万円を 支払った場合
家族 構成 |
給与
収入 |
未加入の場合 |
加入の場合 |
節税額
(<1>−<3>)
+ (<2>−<4>) |
課税 所得 |
<1>
所得税 |
<2>
住民税 |
課税 所得 |
<3>
所得税 |
<4>
住民税 |
独身者 |
万円
300 |
万円
109.6 |
円
54,800 |
円
118,600 |
万円
99.6 |
円
49,800 |
|
|
500 |
232.7 |
135,200 |
241,700 |
222.7 |
125,200 |
234,700 |
17,000 |
夫婦 |
400 |
131.6 |
65,800 |
145,600 |
121.6 |
60,800 |
138,600 |
12,000 |
800 |
429.8 |
432,100 |
443,800 |
419.8 |
412,100 |
436,800 |
27,000 |
夫婦と
子供1人 |
500 |
161.1 |
80,500 |
180,100 |
151.1 |
75,500 |
173,100 |
12,000 |
1,000 |
560 |
692,500 |
579,000 |
550 |
672,500 |
572,000 |
27,000 |
夫婦と
子供2人 |
600 |
193 |
96,500 |
217,000 |
183 |
91,500 |
210,000 |
12,000 |
1,000 |
521.1 |
614,700 |
545,100 |
511.1 |
594,700 |
538,100 |
27,000 |
<平成21年11月現在の税制・関係法令等に基づく>
※ 課税所得の計算において、給与所得控除、社会保険料控除、生命保険料控除、配偶者控除、扶養控除、基礎控除を考慮。特定扶養親族の割増は考慮せず。
※ 生命保険料控除(個人年金を含む)は、所得税計算では10万円、住民税では7万円を控除。
※ 住民税の均等割は、4,000円。
個人年金のみ加入、
個人年金保険保険料(税制適格型)10万円を支払った場合
家族 構成 |
給与
収入 |
未加入の場合 |
加入の場合 |
節税額
(<1>−<3>)
+ (<2>−<4>) |
課税
所得 |
<1>
所得税 |
<2>
住民税 |
課税
所得 |
<3>
所得税 |
<4>
住民税 |
独身者 |
万円
300 |
万円
109.6 |
円
54,800 |
円
118,600 |
万円
104.6 |
円
52,300 |
|
|
500 |
232.7 |
135,200 |
241,700 |
222.7 |
130,200 |
238,200 |
8,500 |
夫婦 |
400 |
131.6 |
65,800 |
145,600 |
126.6 |
63,300 |
142,100 |
6,000 |
800 |
429.8 |
432,100 |
443,800 |
424.8 |
422,100 |
440,300 |
13,500 |
夫婦と
子供1人 |
500 |
161.1 |
80,500 |
180,100 |
156.1 |
78,000 |
176,600 |
6,000 |
1,000 |
560 |
692,500 |
579,000 |
555 |
682,500 |
575,500 |
13,500 |
夫婦と
子供2人 |
600 |
193 |
96,500 |
217,000 |
188 |
94,000 |
213,500 |
6,000 |
1,000 |
521.1 |
614,700 |
545,100 |
516.1 |
604,700 |
541,600 |
13,500 |
<平成21年11月現在の税制・関係法令等に基づく>
※ 課税所得の計算において、給与所得控除、社会保険料控除、生命保険料控除、配偶者控除、扶養控除、基礎控除を考慮。特定扶養親族の割増は考慮せず。
※個人年金保険の生命保険料控除は、所得税計算では5万円、住民税では3.5万円を控除。
※住民税の均等割は、4,000円。
控除対象の契約形態に加入しても、自己申告をしないと、控除が受けられません。生命保険料控除を受けるための手続きを覚えてしまいましょう。
生命保険料控除の手続き
サラリ−マンの場合
生命保険会社の発行する「生命保険料控除証明書」を「給与所得者の保険料控除等申告書」に添付し、勤務先に提出して年末調整で控除を受けます(給与天引きにより保険料を払い込んでいる場合は不要です)。
注)年収が2,000万円以上など一定の条件を満たす場合は、確定申告となります。
自営業者の場合
翌年2月16日から3月15日までの所得税の確定申告において、「生命保険料控除証明書」を確定申告に添付して控除を受けます。
2005.1.16記事 2011.3更新 |